3.世界と日本における馬の飼養動向
世界の主要国およびわが国における最近10年間の馬の飼養動向を示す。世界全体の馬飼養頭数の推移をみると(表2),国によって増減がみられているが,全体としては6千万頭を維持している。
表2.世界主要国の馬飼養頭数の推移
(単位:千頭)
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国 名
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1988年
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1997年
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アメリカ
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5,203
|
6,150
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中国
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10,691
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10,194
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(旧)ソ連
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5,885
|
2,300
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メキシコ
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6,160
|
6,250
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ブラジル
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5,971
|
6,394
|
アルゼンチン
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2,900
|
3,300
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世界全体
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60,760
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61,773
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表3.わが国の馬総飼養頭数の推移
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年次
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軽種馬
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農用馬
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乗馬用
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在来馬
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肥育馬
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合計
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1989年
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66,772
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22,882
|
7,478
|
2,701
|
4,643
|
104,476
|
1998年
|
63,957
|
22,698
|
11,646
|
2,892
|
10,260
|
111,453
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一方,わが国における馬飼養頭数の推移をみると(表3),第2次世界大戦中には150万頭も飼育されていたが,現在は10万頭余にまで減少しており,用途別では,乗用馬と食用の肥育馬が10年間で若干増えてきている程度である。わが国の飼養馬の大半は競走馬用のサラブレッドであり,農用馬や乗用馬が極端に少ない。主要国におけるサラブレッド生産頭数の10年間の推移を表4に示した。米国,オーストラリアを除けば,年間の生産頭数はさほど多くなく,サラブレッド競馬発祥の国イギリスでも年間の生産頭数は日本よりも少ない。
表4.主要国のサラブレッド生産頭数の推移
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国 名
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1988年
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1997年
|
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アメリカ
|
45,827
|
32,200
|
オーストラリア
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22,884
|
17,926
|
日本
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8,311
|
8,336
|
アイルランド
|
-----
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7,130
|
イギリス
|
5,066
|
5,220
|
ニュージーランド
|
6,823
|
4,950
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さらに,日本におけるサラブレッド生産の実態を知るために,表5に繁殖雌馬の飼育頭数規模別飼養戸数の10年間の推移を示した。表にみるように,繁殖雌馬が15頭以下の小規模経営の牧場が大半を占めている。さらに,表6に示したように,最近は,欧米の競馬先進国からの競走馬の輸入頭数の増加傾向が顕著に認められる。
表5.軽種馬繁殖雌馬の飼養頭数規模別飼養戸数の推移
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年次
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飼養戸数
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飼養頭数規模(頭数)
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1-5
|
6-10
|
11-15
|
16-20
|
21-30
|
31-40
|
41-60
|
61<
|
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1989年
|
2,055
|
1,013
|
671
|
219
|
82
|
44
|
14
|
7
|
5
|
1998年
|
1,648
|
692
|
599
|
216
|
77
|
38
|
9
|
10
|
7
|
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表6.わが国の軽種馬(サラ系)輸入頭数の推移
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年度
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繁殖用
|
競走用
|
妊娠馬
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総頭数
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|
|
|
雄
|
雌
|
計
|
雄
|
雌
|
計
|
雄
|
雌
|
計
|
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1989年
|
25
|
66
|
91
|
28
|
26
|
54
|
106
|
53
|
198
|
251
|
1998年
|
4
|
78
|
82
|
237
|
108
|
345
|
66
|
241
|
252
|
493
|
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わが国において,社会的にも獣医学的にも馬が重要視されていない一つの証左として,過去10年間に承認された馬用医薬品のリストを表7に示した。10年間に僅かに7件と,きわめて少ない。
表7.過去10年間に承認された馬用医薬品
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商品名
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有効成分
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製造・輸入
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承認日
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イムスノペック
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馬ガンマグロブリン
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化血研
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H1/8/11
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日生研EVA不活化ワクチン
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馬皮膚細胞培養馬ウイルス性
動脈炎ウイルス
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日生研
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H2/10/3
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オプチェック血液用EIAキット
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プロゲステロン抗体付着
マイクロタイタープレート
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デンカ製薬
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H4/4/14
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シルナックペースト
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ビチオノール
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大日本製薬
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H6/7/5
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バナミン注射液5%
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プルニキシンメグルミン
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大日本製薬
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H7/12/19
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バイオネート
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ヒアルロン酸ナトリウム
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バイエル
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H11/3/26
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ベナンチプルミンーシロップ
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塩酸グレンブテロール
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ベーリンガー
インゲルハイム
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H11/11/4
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農水省動物医薬品検査所調べ
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1945年,農林省畜産局に併設されていた競馬部は日本中央競馬会法の施行と同時に廃止され,畜産行政関係法規では家畜改良増殖法と家畜伝染病予防法の中に「馬」として一括取り扱われている以外は,すべて新競馬法と日本中央競馬会法の積極的な指導下に置かれた。
参考までに,現在,農林水産省が定めている馬の改良増殖目標(平成8年1月制定)の要点を次に記す。
(1)輓用,競走用,乗用等それぞれの用途に応じ,遺伝的能力の改良と推進と併せて飼養管理の改善を図ることとし,能力等に関する目標を次のとおりとする。
ア 農用馬(輓用馬)
(ア)過度の大型化を抑制し,粗飼料の利用性の高いものにするとともに,強健で温順なものにする.
(イ)早熟で繁殖力の高いものにするとともに,繁殖技術の改善に努めるものとする。また,優良種雄馬の
広域利用を図るために,人工授精の普及に努めるものとする。
(ウ)体各部の均称のよいものにしつつ,体幅及び体長の増大に努め,産肉量の向上を図るとともに,運動性
に富み,けん引力に優れたものとする。
(工)効率的な改良に資するために,ブルトン種,ベルシェロン種等の優良純粋種馬を確保し,その適切な
利用に努めるものとする。
イ 競走馬にあっては,国内産優良種馬の活用,生産育成技術の改善等により,特に競走能力の向上を図ると
ともに,強健性の向上に努めるものとする。
ウ 乗用馬にあっては,動きが軽快で,強健性に優れ,温順で乗りやすいものとする。特に,競技用馬にあって
は,飛越力,持久力等に優れたものとする。'
(2)飼養頭数については,輓用,競走用,乗用等それぞれの需要動向に即した頭数となるように努めるものとする。
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