No.8 日本ウマ科学会創立10周年記念講演


6.21世紀の馬と人の関わり

 21世紀の馬と人の関わりについて,以下に要点をまとめる。

1)21世紀の競馬の付き合い方
   現在,わが国において多数の馬を擁する日本中央競馬会(JRA)が独自の行った競馬に対する将来展望に
  ついての委員会報告によると,@知的活動一遊びの精神に根ざす,A確かな未来を予測し,その結果に賭ける,
  B高齢化社会における競馬の楽しみ方,C馬事文化の継承,D馬の教育的意義などを挙げている。
  
2)ホースサミットの開催
   平成2年8月25日,北海道浦河町において,第1回全国市町村ホースサミットが開催された。30をこえる
  市町村からの参加者により,"馬との共存,文化を考える"と題してパネルディスカッションが行われた。
  日本では,馬イコール競走馬のイメージが強く,仮に,もし,競馬がなくなるような事態になったら,日本の
  馬の文化はなくなってしまうのではないかとの不安がある。今後,馬のいる風景と新しい馬のファンを
  点から線へ,線から面へと増やしていくべきである。

3)21世紀の馬科学
   馬をめぐる科学は,機会を捉えて才能のある馬学の泰斗による教育活動が望まれるが,馬は生き物であり,
  置物や映像だけになってはいけない。

 (1)馬は人類に文化をもたらした:民俗学,文化人類学,ライフサイエンス
 (2)馬の文化:食の文化,戦の文化,農耕の文化,神事,スポーツ
 (3)馬の生物学:生物学,社会科学,環境科学,経済学,運動科学,スポーツ医学,福祉医療,資源生物学
 (4)馬の社会心理学:馬車,騎馬(皇宮警察,警視庁,平安騎馬隊)
 (5)馬と人の福祉
 (6)馬と教育の場
   幼稚園;グリーンツーリズム,絵画,バーチャル(見る)
   小中学校;飼育動物(触る)
   高校;馬術(ウエスタンも含む),身障者乗馬への関心(御す)
   大学;専門教育一獣医畜産学,生物
     ;考古学,文化史(銜,鞍,鞭,鐙)
     ;オリンピック馬術(動物を用いる唯一の競技)
     ;競馬文化と運動科学
   家庭・成人;トレッキング,馬の飼育,管理,生きがい
        ;馬糞の応用,健康のための作物栽培(クラインガルテン)
        ;生活のなかの馬

 最後に,今後馬の活用が期待される分野として,澤崎坦氏の論文からの記事を表10に紹介する。

表10.馬の活用が期待される分野

分野
具体例
適用される馬の区分

農 業
 有機農業:厩肥生産
 運搬作業:収穫物
 管理作業:肥培管理
 その他:
 体力と持久力のある馬

林 業
 運搬作業:伐採木材の搬出
 管理作業:種苗圃
 その他:
 体重が重く,体力と持久力
 のある馬

レジャー (レクリエ ーション)
 競馬:平馬・障害競走,ばん曳競争
 乗馬:
 野外騎手:ホーストレッキングなど
 観光馬車:
 その他:
 競走馬として登録可能な馬

教 育
 情操教育・しつけ:動物とのふれあい(飼養管理)
 理科(生物)教育:自然観察(野外騎乗)
 その他:
 取扱者の体格と釣り合いの
 とれた馬,性格のよい馬

福 祉
 障害者対策:パラリンピックの選手強化,
 バランス感覚の体得
 高齢者慰問:気分転換
 その他:
 取扱者の体格と釣り合いの
 とれた馬,おとなしい馬
 おとなしい小格馬

澤崎坦(2000)より引用