馬科学情報

馬の眼科学 ~臨床家の生き残り術~

 Dennis E. Brooks, DVM, PhD Diplomate,     
American College of Veterinary Ophthalmologists
 Professor of Ophthalmology University of Florida
 (米国獣医眼科学会専門医フロリダ大学眼科学教授)

眼科検査:
1.反射試験

 眼球に対して速い威嚇するような運動を起こして瞬目反射を誘発するか、頭部を動かして威嚇反射を検査する。これにより大まか な視覚検査ができる。検査を行う際には、空気が目に当たらないように注意する。馬は極めて敏感に威嚇反射する。明るい光を目の近くに見せると、馬は、素早 く目をそらす「眩しがる」反応を示すはずである。眼瞼に軽くタッチして、瞬目応答を観察することで眼瞼反射をテストできる。側面目隠しフード(ブリンカー)や大きなタオルで片方ずつ目を覆った迷路試験で 視覚をさらに評価することができる。迷路試験は薄明下と明光下の両方で実施すべきである。危険物を取り除いた厩舎の通路が、迷路試験の実施場所として適し ている。上下逆にしたバケツその他の容易に配置を変えることのできる滑らかで硬い物体を用いて障害路を作る。目隠しされていないほうの目に視力がある馬な ら、迷路をうまくすり抜けて餌に到達することができる。馬を自由に歩かせたほうが迷路試験を良く行うことができる。迷路の出口は安全のため遮断しておく。瞳孔反射PLR;直 接ならびに間接)で、網膜、視神経、中脳、動眼神経、虹彩括約筋の機能を総合的に評価する。刺激光が特に強くない限り、正常な馬の瞳孔は、いくぶんゆっく り反応し、反射も不完全である。光源が、視軸よりわずかに後頭部側に焦点を結ぶと、反射が最も強く、「線条(“visual streak”)」に輝く。片側の眼を刺激すると、両側の瞳孔が収縮する。重篤な角膜混濁がある場合に、網膜機能を検査するのにPLRは有用である。

2.診断検査
・馬の眼科障害には順序立てて体系的にアプローチすることが重要である。症例のほとんどは、標準の眼科臨床検査法を使って診断することができる。
 検査をしやすくするには、鎮静薬の静注、鼻あるいは耳捻子、眼窩上感覚神経もしくは耳介眼瞼運動神経のブロックが必要になる場合がある。
耳介眼瞼運動神経(眼輪筋への運動神経)を皮下に触診でき、頬骨弓の頂部の少し外側に2-3 mlのリドカインを注入してブロックする。
前頭神経もしくは眼窩上神経(上眼瞼の内側2/3の感覚神経)は眼窩上孔の位置でブロックできる。この眼窩上孔は上眼窩縁の内側に、眼窩上突起が広くなる位置に触れることができる。この領域以外への麻酔には、眼窩縁周囲のラインブロックを使うことができる。
Schirmer涙液試験は反射性の流涙量を測定する方法であり、慢性潰瘍や角膜が乾燥して見える眼の検査に用いる。 Schirmer涙液試験は、薬剤を点眼する前に実施しなければならない。試験紙を切込み部で折り、切込み部の端を下眼瞼縁後部に挿入する。1分後に試験 紙を取り除き、湿った端までの距離を測定する。馬では、1分後に試験紙全体が湿ることが多く、14-34-mm wetting/minuteの範囲であれば、正常と判断する。10-mm wetting/minute未満であれば、涙液欠乏状態と診断する。
角膜の細菌培養は、眼球に何らかの点眼薬を用いる前に微生物培養用綿棒を用いて行わなければならない。角膜潰瘍部にスワブを やさしくタッチさせて、バイプレートに接種するか、輸送培地に入れて、培養を依頼する。ダクロンスワブは、2個の滅菌パックでセットになって供給される。 この密に織られた合成スワブは、培養では綿棒と比較して優れている。線維を残すことがなく、後の細胞診で誤認する恐れがないからである。
往診での別の検査法: ある著者(AED)は、往診で角膜の細菌培養を行うのに二重にラップされた滅菌メスを用いている。メスを採材部表面にあて、その後チオグリコール液体培地 の入った試験管に落とす。液体培地をトラックで運び、1日の終わりに恒温槽に入れ、一晩置いて混濁の有無を観察する。液体培地中に増殖した検体を次に培養 プレートに採取し、顕微鏡分析と感受性試験を行う。眼科感染症の治療に用いる一般的な抗生物質(セファゾリン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、ア ミカシン、シプロフロキサシン、オキサシレン、トブラマイシンなど)のディスクによる感受性試験セットを、診療所に常備しておき、眼科感受性分析に用い る。自分達で培養した場合には、わずか48時間で有用な結果が得られることが多い。このアプローチは、検査の外注では、検体の送付から結果を受けとるまで に何日も待たされていた臨床上の不都合に対する、実用的な解決策である。

 細胞診で細菌や深在性の真菌菌糸を検出する目的での角膜スクレーピングは、点眼麻酔後に、滅菌メス刃のホルダー側を用いて、角膜病変の辺縁部や基部から材料を得る。表層のスワブでは、高い割合で原因微生物を得ることが期待できず、検体採取前に表面のデブリを除去することが役立つであろう。眼瞼と結膜の腫瘤の細胞診を行うことも診断に役立つ。
 方法:メスの刃を収容しているアルミホイルを、刃の鈍端側で折り曲げ、スクレーピングの際のハンドルとして用い、鋭端は、カ バーの中に収容したままにする。採取した検体を、2、3枚のスライドグラスに直接塗沫する。がまんが肝要である。角膜病変周囲に剥脱した角膜組織を「追 跡」し、メス刃の端にそれを付着させるには、忍耐がいる。検体をスライドグラスの上に載せたら、空気乾燥させる。固定は必要ない。検体を載せたスライドグ ラスは、厚紙製のスライドグラスキャリアではなく、スロットのついたプラスチックボックス(Cornell Diagnostic Laboratoryその他の臨床検査用品メーカーから入手できる)に収容して運ぶのがベストである。基本的な眼科細胞診に熟達するのは困難なことではない。 練習を積めば、診療施設内でスライドの判読を行うことが可能になり、治療方針の決定を迅速に行うことができる。眼科細胞診の中核的なコンセプトは、微生物 (細菌や糸状真菌)を探すこと、「visiting cell(他所から移動してきた細胞)」(好中球、好酸球、リンパ球、単球)を探すこと、および、植物体の一部のような異物を探すことである。これらのエ レメントは全て、DifQuik染色とグラム染色、油浸対物レンズを用いた顕微鏡観察で同定可能である。スライドには通常は、密に集合している上皮細胞の 大きな塊と、個別に分かれた細胞の薄いシートが複合しているものである。小さなシートおよび、他所から移動してきた個別の細胞を示す領域が最も有用な情報 をもたらす。細胞診は、臨床検査業者に依頼するとコストがかさみ、結果が得られるまで時間がかかるため、臨床家は、細胞診をおろそかにしがちである。しか し、細胞診を、診療施設で検査技師あるいは獣医が行えば、この問題点は解消される。
・角膜は透明で平滑で、輝いていなければならない。馬の眼科検査では、フルオレセイン色素(希釈せずに用いる)を用いて、角膜潰瘍を特定することをルーチンにすべきである。他の方法では発見できない小さな角膜潰瘍を染めることができる。
ザイデル試験: フルオレセインを用いて、角膜の穿孔あるいは角膜縫合のリークを検出できる。
涙液層破壊時間(TFBUT)正常であれば涙膜は連続している。瞬目によって涙膜の連続性が維持されてい る。瞬目が頻繁に行われないと涙膜が破壊される。(フルオレセインを点眼した後)コバルトブルーフィルター光のもとで観察すると、涙が乾燥し拡散する一部 に暗い乾燥したスポットが出現する。フルオレセイン色素を角膜に点眼し、そのまま洗い流さないでおく。眼瞼を用手的に3回開閉、眼瞼を開いたままにして、 涙膜を露出させ、乾燥するのを待つ、瞬目後の角膜表面にドライスポットが出現するのに要した時間を涙膜破壊時間(TFBUT)と呼ぶ。健常眼では、およそ 10-12秒後にドライスポットが出現しはじめる。TFBUTが10秒未満であれば異常であり、涙膜のムチン層の不安定性を伴っているであろう。
キ フルオレセインの点眼後の一部の症例では、ローズベンガル色素を用いて涙膜の完全性を確認する。ローズベンガル色素試験紙はhttp://www.akorn.comから入手できる。
鼻涙系の開存性を判断するには、鼻涙カニューレもしくは湾曲汎用シリンジを使って鼻の入り口から灌流する方法がベストである。しかし、鼻涙系を通してフルオレセイン色素が侵入することでも開存性が確認できるであろう。
前眼房 (AC)については手持ち、もしくはトランスイルミーターにマウントした細隙灯を使って良好に検査できる (www.danscottand associates.com)。前眼房には光学的に透明な眼房水を含んでいる。ACのタンパク質量の増加は、臨床的には房水フレアとして観察される。ACに白血球が存在していることを前房蓄膿と呼び、ACに赤血球が存在しておれば前房出血と呼ばれる。房水フレア、前房蓄膿、前房出血の存在はブドウ膜炎を示す。
・馬の眼圧(IOP) はTonopen圧平眼圧計を用いて16-30 mm Hgである(www.danscottandassociates.com)。
散瞳薬の点眼は、瞳孔反射を調べた後に行う。好んで使われる薬は、1% トロピカミド点眼薬である。正常な馬であれば、散瞳が生じるまでに15-20分かかり、8‐12時間持続する。アトロピンは治療目的の散瞳薬として使用する。正常な馬であれば、点眼後2週間以上散瞳が継続するからである。
水晶体は位置と混濁あるいは白内障についてチェックする。正常なバリエーションと考えられる水晶体の混濁がいくつもある。た とえば、水晶体縫合部の明瞭化、硝子体血管の付着部、屈折同心円リング、細かな「ダスト状」混濁、およびまばらな「空胞」が水晶体内に存在するものなどが そうである。
白内障は水晶体の混濁であり、様々な程度の視力低下を伴う。先天性の場合もされば、ブドウ膜炎に続発する場合もあり、進行性のものも非進行性のものもある。一部の品種は遺伝性の場合がある。
・馬では正常な加齢性変化である水晶体核の混濁(核硬化)が、7ないし8歳から始まるが、これは真性白内障ではない。縫合線と水晶体嚢も、正常な加齢に伴って、わずかに不透明になることがある。
・成体馬の硝子体には通常、不透明部は存在しない。加齢と共に、あるいは馬再発性ブドウ膜炎 (ERU)に続発して硝子体に浮遊物が生じることがある。
・網膜と視神経は直接検眼鏡(Panopticィ)、あるいは間接検眼鏡を使って検査する。直接検眼鏡のロータリーレンズの設定を0にして、網膜と視神経を検査し、「グリーン」ナンバー20に設定して、眼瞼や角膜にフォーカスを合わせる。
直接検眼鏡での眼底イメージの拡大倍率は、馬では、側方では7.9倍、軸方向では84倍である。間接検眼鏡で20Dレンズを装着した場合には、側方を0.79倍、軸方向では8.4倍である。Panopticィ 検眼鏡には間接検眼鏡と直接検眼鏡の中間の拡大率がある。乳頭周囲色素脱失などのERUの徴候がないか、眼底検査を行う必要がある。 視神経乳頭の腹側にあるnontapetal領域は直接検眼鏡で詳しく検査する。ここには巣的網膜瘢痕が形成される部位であるからである。網膜剥離は先天 性の場合もあれば、外傷性、あるいはERUに続発する場合もあり、完全失明あるいは部分的な失明が伴うため、重大な所見である。
B-スキャン超音波、CT、ならびにMRイメージング法が、馬の眼内および眼窩領域を調べるのに重要である。CTやMRは、通常、紹介(二次診療)施設で実施する。高分解能超音波スキャンは二次診療施設での検査であるが、7.5‐10MHZ の腱観察用プローブと従来のフィールドユニットを用いたBモード超音波を行うことで、網膜剥離や水晶体脱臼、眼球寸法の異常などの重大な問題の診断画像が得られる場合が多い。

角膜
角膜に好発する障害:

表在性角膜びらん: びらんとは実質まで侵入しない欠損である。びらん部が感染していなければ、迅速に治癒し、瘢痕が認められることは ない。散瞳薬と抗生物質の点眼が適応となる。一部の高齢動物では、上皮がしっかり接着てきる正常な基底膜を生じないため、びらんが、慢性、難治性の無痛潰 瘍となることがある。これらの症例は、デブリドマンあるいは一時的瞼板縫合術で治ることもあるが、2週間で治癒しなければ、表層性線状角膜切開 (superficial linear keratotomy)の実施を検討する。鎮静と局所麻酔を行い、病変部の上の表面を、直近を止血鉗子で挟んだ22 g針の先端で慎重に掻爬して実質表層に格子状の切開を作り、新たな上皮細胞が接着する足場を形成する。手技の詳細については、教科書を参照のこと。注意! 格子状角膜切開術を行うと、既存の感染が、実質深部にまで侵入するおそれがある。細菌や真菌の感染が疑われる場合には、この処置を行ってはならない。

表在性角膜炎:  表在性角膜炎は、点状の染色取り込み部位、巣的な血管形成、色素沈着、巣的表在性混濁、あるいは、水疱性角膜症で上皮がかすかに水疱状に見える病変を呈する。点状角膜炎は、 ウイルス(ヘルペス)が病因であるか、特発性であろう。痛みを伴う場合もあれば、無痛の場合もある。上皮は、フルオレセイン色素を点状に取り込み、表面全 体に及んでいる。idoxyuridine点眼で、状態が改善する場合がある。NSAIDSの点眼、とりわけ0.1%ジクロフェナクが極めて有用であろ う。その他のタイプの角膜炎も、NSAIDsや抗ウイルス薬の点眼で良好に改善されるであろうし、抗生物質の点眼で改善されるものもある。これらの症例で 点眼ステロイドを用いることを検討する際には注意することが望まれる。コルチコステロイド治療を試みられている馬は、慎重にモニターしなければならない。 表皮の外見が通常ではない馬や、説明のつかない混濁のある馬は、眼圧測定で緑内障のチェックを行う必要がある。

潰瘍性角膜炎: 潰瘍は実質まで欠損が及ぶものである(びらんは、上皮に限局された欠損である)。これらの欠損の治癒は 綱渡りのようなものである。理想的には、涙膜のプロテイナーゼが実質欠損部のリモデリングを行い、もともと存在している線維芽細胞が実質の完全性を回復さ せる。細菌感染症や真菌感染症、ならびに様々な宿主因子があると、再吸収が過剰になる方向にバランスが移り、実質コラーゲンが溶解し、場合によっては眼球 に穿孔が生じる場合がある。潰瘍には強い疼痛が伴い、続発性ブドウ膜炎を伴うため、患動物が点眼療法を拒絶して、症候群が悪化する傾向がある。この点に関 する詳細な検討については教科書を参照のこと。補助的外科療法としては、デブリドマンもしくは角膜切開術があり、往診で実施できる。複雑な症例では、角膜 切除、結膜移植、羊膜移植、あるいは瞼板縫合が必要になる場合があり、従って紹介症例である。極めて重症な症例は、全層角膜移植(PK)あるいは層状角膜 移植(PLK)などの角膜移植が必要となろう。

細菌感染を伴う潰瘍は細胞診で診断できる。スライドグラス塗沫標本で観察した細菌タイプで治療法が決まり、治療に対する 反応や、病変部の培養/細菌感受性試験の結果をもとに治療法を変更する。初期治療を集中的に行い、通常は1日あたり4-6回実施する。抗生物質を散瞳薬お よび点眼抗プロテイナーゼと併用する。疼痛コントロールには全身NSAIDsが有用である。点眼療法の補助として結膜下注射を用いても良い。明瞭な角膜軟 化がなく協力的な患畜の治療は、厩舎での眼軟膏の投与でも、短期間で改善するであろう。気難しい患畜、あるいは、極めて深部に欠損のある症例では、眼瞼下 チューブを介して点眼液の注入を、厩舎または、二次診療施設で行う。治癒が始まったことが明確になるまで、頻繁にモニターする必要がある。細菌性角膜炎に 使われる最も一般的な抗生物質は、クロラムフェニコール、セファゾリン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキサシン、アミカシンである(以下の 薬剤表を参照)。アトロピンは効果が見られるまで点眼するべきである。血清投与を用いた抗プロテイナーゼ療法はルーチン的であり、MMP阻害薬と組み合わ せても良い。デブリドマンは慎重に判断して行う。

溶解性あるいは極めて劇症の潰瘍: 最も深刻で、眼に危険を及ぼす細菌感染症は、β溶解性連鎖球菌や緑膿菌が原因のもの である。コラーゲン溶解が広範に及ぶ場合には、予後は警戒を要し、これらの感染症は、治療コストも時間もかかる。治療は即時に積極的に行う必要がある。二 次診療施設では、抗生物質と抗プロテイナーゼを、1-2時間おきに、終日投与している。セファゾリンがβ溶解性連鎖球菌に対して最も効果的である。緑膿菌 に対しては、アミカシンやトブラマイシン、ゲンタマイシンが最も有効である。抗プロテイナーゼ点眼療法では、通常、複数の薬剤(血清、アセチルシステイ ン、EDTA、イロマスタット)の併用で行い、治療開始時には1-2時間おきに投与する。注:薬物療法の詳細と強化液の推奨濃度については、末尾の表を参 照のこと。アミカシンとゲンタマイシンの強化液は、全身療法や整形外科療法の市販薬から容易に調剤できる。セファゾリンは極めて安価で、獣医サプライヤー や近くの小動物病院から1グラムボトルで容易に入手できる。希釈して50mg/ml強化液にする。

真菌感染を伴う潰瘍 (角膜真菌症): 真菌は馬の生活環境や結膜の微生物フローラの、常在微生物である が、角膜損傷が生じると病原性を示す場合がある。アスペルギルス属、フザリウム属、Cylindrocarpon、Curvularia、酵母菌、糸状菌 が、馬での真菌性潰瘍形成の原因になることが知られている。
・潰瘍性角膜真菌症は馬での重篤かつ視力をおびやかす疾患である。失明が生じる可能性もある。馬での潰瘍性角膜真菌症の病因として最も多く提唱されている のは、軽度ないし重度の角膜外傷による上皮欠損が生じ、欠損部に、正常角膜上にも存在する真菌がコロニー形成し、その後、実質にまで侵入するというもので ある。植物由来の異物から真菌が播種されることも考えられる。涙膜が破壊されると、角膜上皮に浸潤する能力を有している真菌もあると考えられている。プロ テイナーゼその他の酵素が真菌、涙膜に存在する白血球および角膜細胞から放出されることで、実質の破壊が生じる。真菌は、抗血管新生化合物を産生するもの があり、血管新生が阻害される。

 真菌はデスメ膜と親和性があるようで、菌糸が、馬の角膜の深部に認められる場合が頻繁にある。より深部の角膜に浸潤すると、無菌性あるいは感染性眼内炎を招くおそれがある。サドルブレッド種は重篤な角膜真菌症が生じやすいが、スタンダードブレッド種は抵抗性がある。

診断検査には、フルオレセイン染色とローズベンガル染色、角膜細胞診、角膜細菌培養で真菌培養と好気性菌培養を含めるべきであり、手術時には生検を実施する。
迅速な診断、抗真菌薬、抗生物質、アトロピンの点眼と、NSAIDsの全身投与による積極的な薬物療法を行うことが、視力に関する予後に良い影響を及ぼ し、外科的治療が必要なくなるであろう。治療は、真菌に対して、ならびに、真菌の増殖と死滅によって生じる虹彩毛様体炎に対して行う。治療は極めて長期に 及び、角膜の瘢痕形成が著明になろう。真菌は、以下の順序で抗真菌薬に対する感受性が高い:ナタマイシン= ミコナゾール > イトラコナゾール > ケトコナゾール > フルコナゾール
・「潰瘍カクテル」:馬血清、トブラマイシン、ナタマイシン、セファゾリンを併用すると、ブドウ球菌や連鎖球菌、真菌に対して極めて有効である。ナタマイ シン、ミコナゾール、イトラコナゾール/DMSO、フルコナゾール、アムホテリシンB、2%ベタジン溶液、クロルヘキシジングルコーネート、ポザコナゾー ル、ボリコナゾール、ならびにシルバースルファジアジンも、馬の角膜真菌症に対して外用できる。しかし、この使用は適応外である。2%OTCを添加したミ コナゾールの膣用クリームを眼に外用できるが、刺激性が強い。調剤薬局に1%ミコナゾール溶液をオーダーするのがベストである。1%OTC添加シルバース ルファジアジンクリームも角膜に外用で使える。大学薬剤部に電話して、その他の外用薬および全身投与用の抗真菌薬をオーダーする。
細菌の死滅により抗真菌療法の開始翌日に、ブドウ膜炎が悪化する場合がある。
・オトラコナゾールあるいはフルコナゾールの全身投与が、難治例に有用な場合がある。

実質膿瘍: 角膜に点状の外傷が生じると、微生物や異物が開口部を通じて角膜実質に侵入する可能性がある。一部の実質膿瘍が全身性疾患に続発することもあろう。
・創に隣接する上皮細胞が分裂、遊走により、実質内の感染エージェントや異物を覆うと、角膜膿瘍が生じる場合がある。上皮細胞は、細菌感染巣よりも真菌感 染巣を覆う可能性が高い。上皮が再形成されると、細菌や真菌を、外用抗微生物薬から保護するバリアになる。実質膿瘍の上皮再形成は、ルーチンの診断と治療 の療法に支障を来たす。
・馬の角膜実質膿瘍は、見かけは軽度の角膜潰瘍形成の視力を脅かす続発症となる可能性がある。痛みを伴い失明の原因となる慢性虹彩毛様体炎が生じる。
・デスメ膜に及ぶ実質膿瘍のほとんどは、真菌感染症である。真菌は、デスメ膜のタイプIVコラーゲンに「引きつけられる」ようである。
・表在性と深在性の実質膿瘍は共に、血管が形成されるまでは治癒しない。角膜の血管形成パターンは、しばしばユニークであり、膿瘍から血管活性化因子が放出され、血管形成応答に影響を及ぼすことを示唆している。
・薬物療法は、抗生物質の積極的な点眼および全身投与、アトロピン点眼、NSAIDsの点眼および全身投与である。
・表在性実質膿瘍は、薬物療法に初期に効果が認められるであろう。薬物療法を2、3日実施して角膜やブドウ膜の炎症の軽減が見られない場合には、膿瘍の外科的切除を検討する。
・深部層状角膜移植および全層角膜移植(PK)はデスメ膜近傍の膿瘍や、膿瘍が破裂して前眼房に侵入した眼に応用可能である。PKを行うことで、放出され た微生物の抗原が除去され、壊死性の組織片や膿瘍内の変性した白血球が放出するサイトカインや毒素が除去される。

全層角膜移植術 (PK) 深在性角膜実質膿瘍の治療のための角膜移植術
深在性

・角膜移植は視力回復のため、難治性角膜疾患の治療のため、眼の構造的完全性を再確立するために行われる。これは二次施設で行う処置である。
・感染し、血管形成された角膜組織では、全層角膜移植術は拒絶反応のリスクが高いと考えられている。馬のほぼ全てのPKは、高リスク角膜に対して行われる。
・新鮮角膜移植片のほうが馬のPKには望ましいが、凍結組織も使える。
・拒絶を示唆する移植片への血管侵入は、術後5-10日に始まる。
・血管形成後のPK移植片が透明性を維持する例は、馬では稀れである。これは、療変の治癒および構造的支持の機能を担う。