馬科学情報

ロッキングコンプレッションプレート(LCP)は馬の骨折治療を変えるか?

 ディーン・W・リチャードソンDVM(獣医学博士)、
 DACVS(アメリカ獣医外科専門医)、
 チャールズ・W・レイカー外科教授、
 ペンシルバニア大学ニューボルトンセンター

 馬の骨折治療では、いまだに成功しないことが多い。成馬の骨折にいたっては治療や徒手療法が非常に難しく、インプラン トのデザインや組み立てに関する問題を克服できれば効果が期待できるにもかかわらず、それらに対して何の努力も払われてこなかったケースもある。しかし、 治療や整復が可能な骨折の場合には、内固定はロッキングコンプレッションプレート(LCP)によって大きく進歩を遂げている。従来のプレート法では、プ レートと骨間の摩擦力によって力学的に支持力を得ていたが、その摩擦力は骨にスクリューでプレートを「引き寄せる」ことによって生じるため、スクリューが 緩んでしまえば、摩擦力とともに固定の安定性も失われてしまう。最大の安定性を得るには、プレート―骨間の摩擦力が全長にわたって分配されるよう、プレー トの輪郭を精密に形成する必要がある。一方、ロッキングプレートの概念はそれとは異なり、スクリューは摩擦によってプレートに「ロック」される。その結 果、安定性が高く、角度が固定された構成となり、たとえスクリュー―骨間の接点が十分でないか、あるいは欠如している場合でも十分な安定性が得られる。し たがってLCPの場合には、プレート―骨間の摩擦は問題とはならない。また、最大でも外径5.0 mm、内径 4.3 mmというスクリューの寸法も、LCPの大きな利点の一つである。これにより、内径の弾性は5.5 mmのスクリューのそれを上回るという力学的特性が加わる。5.0mmのロッキングスクリューのねじ山は細いので、引き抜き強度は5.5 mmの皮質骨スクリューを下回るが、馬の骨折治療ではスクリューの引き抜きが生じる可能性はとても低い。たとえ、ロッキングスクリューの引き抜きが生じた としても、スクリューがプレートにロックされているため、治療部位への力学的サポートには影響しない。さらに、スクリューはセルフタッピング式のため、ス クリュー挿入時の作業がワンステップ少なく、馬の長骨骨折治療ではかなり時間を節約することができる。今日まで、馬の骨折治療において、セルフタッピング 式ロッキングスクリューの挿入がひどく困難であったという経験はない。標準的な皮質骨スクリューを挿入する場合に用いる手法と同様に、パワータッピング手 法でスクリューを挿入することも可能であり、成馬の管骨や橈骨では時折そのようなやり方が必要な場合もある。
 ロッキングスクリューのヘッドはスタードライブ型で、皮質骨スクリューにいまだ用いられている六角頭型よりもはるかに優れており、スクリューの挿入時、取り外し時にとれる可能性はきわめて低い。
 基本的な力学的原理が異なるため、LCPを臨床で応用する際にも少々異なる考え方が求められる。プレート上の数個の穴(コンビホール)は、ロッキングス クリュー、従来の皮質骨スクリューのいずれであっても挿入することが可能なデザインとなっている。皮質骨スクリューを用いる場合は、これを十分に締め付け たうえでロッキングスクリューを挿入しなければならない。プレートの輪郭形成については、従来のプレート使用時ほど重要ではなく、とりわけ全てのスク リューがロッキングスクリューであればなおさらである。また、ロッキングスクリューはプレートに対し正確に直角に挿入しなければならないという制限がある が、術中プランニング/プロセスでは、執刀医がこれに対応しなければならないということも大きな違いである。この問題は、スクリューを大きな筋などの軟部 組織の下に挿入する場合に起こる可能性がある。そのためLCP使用時には、予備切開とは別にドリルガイドを穿刺切開創から挿入する手法が一般的であり、こ れによって上述のように直角の配置を得ることができる。
 ロッキングプレートは、プレート―骨間接触によらず安定性が得られるため、LCPは骨折治療における侵襲を最小限に抑えるには特に有効である。LCPは 骨折治癒を妨げることなく、力学的側面と生物学的側面のバランスを向上させるように骨膜外に固定することが可能であり、またそうすべきである。
 もちろん、馬のさまざまな骨折治療にとって従来のプレート法が非常に信頼性の高い手法であることも確かである。LCPやロッキングスクリューは高額であ り、現時点ではその適用によって最大の成果が得られるのはどういったケースであるかがはっきりしていない。私見ではあるが、LCPは実質的にはいかなるタ イプのプレート法にも適しているものの、費用面で妥当とは言えない場合もある。それでもなお、安定性について疑問の余地があり、皮質骨再構築が不可能であ る限りLCPを選ぶであろう。馬の骨折治療技術がさらに向上すれば、ロッキングの原理がより径の大きいスクリューやプレートに応用され、より高い慣性特性 が得られるようになる可能性もある。

ロッキングコンプレッションプレートの重要なポイント:

使用方法:
 皮質骨スクリューは、常にロッキングスクリューをプレートに挿入する前に固定しておく。それによって、プレートを骨に引き寄せやすくなる。骨-プレート 間の距離が縮まれば、それだけ固定の力学的強度が増す。プレートを骨に近づけることで、覆っている軟部組織への干渉も抑えられる。ロッキングスクリューが プレートに固定された状態では、ロックされていない皮質骨スクリューによって付加される強度はごくわずかなものである。別の方法としては、プッシュプルと いう仮挿入器具を使い、ロッキングスクリューを挿入して固定するまでプレートを骨に近づけて保持するやり方もある。

輪郭形成:
 プレートの断面はLC-DCPのように均一であるため、LCPの輪郭は正常に形成できるが、プレートに対し、ネジ山が変形するほどプレートを過度に曲げ ることのないよう注意が必要である。また、コンビホールのネジ山部分にかけては鋭角な輪郭形成は避けるとよい。
ドリルガイド:
 ロッキングスクリューのドリルガイドは、正確にかつ十分にコンビホールのネジ山部分に挿入されなくてはならない。開けた穴の位置が正確でなければスク リューを完全に締め込むことができず、プレート―スクリューの一体感が損なわれて大きな問題が生じる。また、全てのドリルガイドをプレートに対し直角にす るためには、筋や皮膚への穿刺切開が必要な場合もあろう。プレートの固定部位が深い場合、複数のドリルガイドをねじ込んで必要な長さにすることも可能であ る。

ダブルプレート法:
 ロッキングスクリューはプレートに対し直角になる必要があるため、ダブルプレート法を適用する場合、一方のプレートのスクリューが反対側のプレートのス クリューを干渉しないよう、プレートをずらして設置することが絶対不可欠である。ダブルプレート法では、適切なプランニングが非常に重要となる。

スクリューの締めつけ:
 ロッキングスクリューはプレートでのみ締まるものであり、骨中ではまったく締まるものではないという点に留意願いたい。スクリューが骨に挿入されている かどうかを「感じ取る」ことはできない。シンセス社は挿入時のトルクを4N内にとどめることを推奨している。というのも、これ以上の力を加えると、スク リューがプレートに永久的に「圧接」されてしまう恐れがあるからである。しかし、ステンレススチール製を使用している限りこのような問題が生じたことはな い。通常、スクリューが間違いなく、完全に挿入されるように手で締めている。ロッキングスクリューのヘッドはやや先細になっており、完全に挿入されていな ければ強度は著しく減少する。

LCPにおけるスクリューの使用/選択
 LCPの力学的利点は、ロッキングスクリューによって得られるものに他ならない。馬の骨折では、骨折部の両面にそれぞれバイコルチカルなロッキングスクリュー5.0 mmを3本以上ずつ使用することが望ましい。LCPに「伝統的」皮質骨スクリューを使用すべき場合を以下に挙げる:
1. ラグスクリューが必要な場合。
2. 骨折面をつなぎ合わせたり、あるいは別のインプラントを避けるため、プレート中でスクリューに角度をつける必要がある場合。
3. 骨に対してプレートを引き寄せるため。プレート中のロックされていないスクリューは、プレートを骨に「引き寄せる」働きがあることを思い出していただきた い。これは馬の下肢、特に軟部組織被覆が問題となる部位では重要な点である。また、骨面にできる限りプレートを近づけて保持することで、内固定具としての プレートの慣性特性は最大となる。
4. 単純骨折のケース(横骨折や短斜骨折)では、ロッキングスクリューをプレートの両端に向かって固定するようにする。単発骨折面の近くでプレートをスク リューでロックすると、骨折部を覆っているプレートの狭い範囲に応力が集中してしまい、プレートの周期的な不具合につながる恐れがある。

 左の写真は、2枚のLCPを用いて侵襲を最小限に抑えた重度の中足骨の粉砕骨折治療例。非解剖的整復および不完全なプレート輪郭形成にもかかわらず、LCPの角度固定がもたらす安定性により、70日未満で治癒した。従来のプレート法では失敗率の高い骨折である。

 大腿骨の長斜骨折は、通常予後良好とされるが、このケースは園庭のホース水に4日間暴露されたため、感染は必至であった。皮質骨スク リューが緩んだにもかかわらず、プレートにロックされたスクリューによって、骨折部の連結は骨折が治癒されるまで保持された。感染に対しては、ビーズ状の 抗生物質含有PMMAを複数回投与した。

 SH2型の上腕骨遠位端粉砕骨折は露出困難で骨片が短いため、LCP以外では極めて治療が困難と考えられる。また、LCPにより安定性が得られるため、露出および整復に必要な尺骨骨切り術を自信を持って行うことができる。

 

 雌の若いサラブレッドは、屈曲した腕節から転倒し、中間手根関節が開いてしまった(写真上および中段左)。いったん感染が治まり、創 傷が治癒してしまうと、切開して従来型プレートを効果的に挿入するのは不可能と思われた。しかしLCPを使用すれば、手根関節固定術用プレートを最小侵襲 性の方法で設置できる(写真中段右)。最新のLCPは、端部近くに丸穴が開けられ、関節近くで固定しやすくなっており、上記写真2点のものよりも一層優れ たものとなっている。