コラム
D型インフルエンザウイルス
Q:ウマのインフルエンザDウイルス感染について
つい最近までインフルエンザウイルスはA~C型の3種類と思っていましたが、2014年頃からインフルエンザDウイルスに関する論文がPubMedなどで検索されます。インフルエンザDウイルスとはどのようなウイルスなのか教えてください。また、このウイルスはブタやウシから分離され、呼吸器疾患を起こすようですが、ウマでの感染は証明されているのでしょうか。家畜ではウシ、ブタ以外にヤギやヒツジでも感染抗体が検出されているようですので、ウマへの感染を示唆する情報があれば教えてください。
A:お答え(受稿日:2016. 6. 28)
近年になり、ヒトやウマを含むあらゆる哺乳動物が、インフルエンザウイルスに感受性を持つことが明らかにされてきましたが、ウシを含む反芻獣については、ほとんど報告がありませんでした。しかし、2015年4月に米国で開催された学会で、米国のグループがC型インフルエンザウイルスのウシでの流行を報告しているのを直に聞きました。その翌月、日本で開催された別の学会で、C型インフルエンザウイルスの専門家と話す機会がありましたので、米国で聞いた前述の発表のことを話してみたところ、「ウシから分離されたC型インフルエンザウイルスは、従来のヒトから分離されたC型インフルエンザウイルスとの遺伝子の相同性が約50%と低いので、新しくD型インフルエンザウイルス属を設けて、そこに分類することが提唱されている」とのことでした。
私の知る限り、ウシやブタの呼吸器病は、様々なウイルスや細菌などの病原体と宿主側の免疫状態が複雑に絡み合って発症することが多く(呼吸器病症候群)、ある一つの病原体の感染だけで発症することは稀なようです。このD型インフルエンザウイルスの場合も、現在のところ、本ウイルス単体をウシやブタに接種することによる呼吸器病の再現には至っていないようです。また、ヒトへの感染の可能性についても、抗体を持つヒトの存在は知られているようですが、実際の患者の報告はありません。また、ウマに対する病原性については、まったく不明です。まだまだ、謎の多いD型インフルエンザウイルスですが、今後さらなる哺乳動物への病原性に関する研究が望まれます。
山中隆史(JRA総研 主任研究役)